かつて、日本では栄養剤のCMで「24時間働きますか」というキャッチフレーズが人気になったことがありました。かつてのビジネスマンはまさに24時間365日、会社のために働くことが理想とされた時代がありました。
しかし、仕事とは人生の一部であり、人生の全てではないというのが現代の価値観です。法律や政策も改正され、今は「休みなしで働く状態」は違法となります。また、近年では極めて深刻な心身のダメージを負う事例も多数報告されています。
目次
法律問題
休みなしで働く人の法律問題
・労働基準法
・時間外労働
・休憩時間
「休みなしで働く」ことが問題だと言われて久しいのですが、未だに日本の働き方は改革をしきれていないのが現状です。まずは法律の現状を知り、労働の基本を把握しましょう。
労働基準法
日本には「労働基準法」という法律があり、これが働く人達を守るために定められています。企業(雇用者)は労働基準法を守る義務があり、これを守らなければ刑罰の対象となります。
「休み」に関していえば、こちらは労働基準法第35条に「週1回もしくは1ヶ月4回の休日を与えよ」とあります。
法律が「労働には規定の休みを設けよ」と明示しているので、当然ながら「休みなく働く状態」は完全な違法です。「繁忙期だから休めない・休ませてくれない」という状況が横行している企業も多いと思いますが、そのような企業は改善に必要があります。
また、「休みではあるけど、仕事をしている・させられている」というケースもよくありますが、こちらも明らかな違法行為となります。
時間外労働
休みなしで働く人の中には、「1日のほとんどを会社で過ごす」というような人も多いでしょう。業界によっては、「今日も会社で寝た」と言うような話を耳にすることも多いと思います。
しかし、先ほどの休みと同様に、労働基準法は「勤務時間」についても明確に決まりを設けています。定められた勤務時間を超えて「会社にいた=仕事をしていた」場合は違法です。
法律に定められた勤務時間は「1日8時間、週40時間」です。ただし、全ての仕事が法律に定められた時間内に終わるということは有り得ません。そこで、36協定と呼ばれる「時間外労働(勤務時間以外の働き)」に関する手続きが定められています。36協定は「時間外労働は月45時間・年間360時間」と定められています。
時間外労働に対しては一律の手当て、もしくは時間単位で残業手当を支払う必要があります。この残業手当を支払わない場合は違法となります。一方、36協定の規定時間を超えるケースにおいては、特別条項の手続きを行うことで上限を無くすことが出来ます。
つまり、時間外労働の規定時間を超える場合、所定の手続きを踏んでいれば、違法になることはありません。
ただ、もちろん特別条項の手続きは簡単には行えません。「正当な事由がある場合、半年以内の時間外労働を可能とする」という枠組みが定められています。この枠組みを超えた場合は違法性があるとみなされ、罰則の対象になることもあり得ます。
休憩時間
休みなしで働く人の中には、「休憩時間もまともにとることができない」「休憩時間の名目だけど実際には仕事をしている」という人もいるはずです。
休憩時間は企業ごとに自由に決められると思っている方もいるかもしれませんが、実際にはこれも労働基準法で明確な規定がなされています。
労働基準法第34条には、「1日の労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩時間を与えなくてはならない」とあります。
どの時間帯で休憩時間を取るかは企業側・働く側の裁量に任されていますが、上記のように全体の休憩時間については規定があります。例えば、ある6時間を超える労働を課す企業が「お昼休み30分のみ」という休憩しか従業員に与えていなければ、それは違法です。
また、休憩時間における活動内容は「個人の自由」が原則です。業務の妨げにならない限りにおいて、休憩時間は自由に行動に及ぶことが出来ます。
しかし中には、「ランチミーティング」と称して食事をしながら仕事の話をすることもあります。厳密には、この場合は休憩とはみなされません。別途、休憩時間が必要となります。
各種リスク
休みなしで働く人が背負うリスク
・生産性の低下
・健康の被害
・精神の悪影響
・私生活の瓦解
「全く休みの無い労働」という状況が法律的に問題だということが分かったと思います。次に、この状況が心身や私生活にどのような変化があるのかについて具体的にご紹介をします。時には、自分の人生が崩れてしまうようなリスクがあります。
生産性の低下
休みなしで働く人の多くは、1日のほとんどを会社で過ごし、自宅には寝るだけに帰るような状況に陥っています。人間には集中できる時間に限界があります。活動を円滑に継続させる為には、こまめな休憩と睡眠などの休息が絶対的に必要です。
しかし、休みなく働く場合は適切な休暇を取っていない、家にいても仕事のことばかり考えているなどの状態になるため、睡眠不足に陥ったり、食欲減退につながったりと、生活リズムの悪化が生じます。
このような乱れた生活リズムが続いた場合は、物事の動作が緩慢になり、仕事の生産性が明らかに低下してしまうでしょう。生産性が下がると、終わるはずの仕事も終わらなくなり、またズルズルと残業が発生します。
残業が続くと、また生活が乱れて生産性が下がります。このように、「生産性低下の悪循環」に陥りやすくなってしまいます。
健康の被害
休みなしで働く人の場合、働いていることが通常になるのであまり意識していませんが、知らず知らずのうちに脳や心臓への負荷が大きなものとなっています。
過労死リスクが高くなる=脳梗塞やくも膜下出血へのリスク上昇となるので、知らぬ間に体を酷使して、突然死するということすらあるのです。
定期的な健康診断ではわからないことも多いので、休みなしで働く人はまず、そのような状況が自分の体にどんな影響を及ぼしているのか見つめ直す機会を設ける必要があります。
精神的の悪影響
長時間働いていることは、自分でも意識していないうちにかなりの精神的ストレスを溜め込んでいます。帰宅してからもちょっとの仮眠ですぐにまた出勤しなくてはいけない、夜は遅いのに朝は早いといった労働環境であれば、睡眠不足に陥り心の状態が極めて不安定となります。
また休みなしで働く人の中には、「円滑な業務が滞っている=上司や同僚との人間関係が悪化している」というケースも少なくありません。これにより、会社に行くこと自体に精神的ストレスを感じていることもあります。
輪をかけて労働時間も長くなるとなれば、相当な心の負担を背負うため、うつ病や自殺願望など心が悲鳴を上げてしまうきっかけになります。
私の友人の話で、長時間労働の職場で働いていた結果、社内がピリピリとした一触即発のムードに包まれ続け、最終的には上司と部下が殴り合う騒ぎに発展した事例もあります。
睡眠不足では感情のコントロールも上手く機能しなくなるでしょう。そうなる前にどうにか職場環境を改善出来ないか、上手く業務を効率化出来ないか、自分なりに模索してみる必要があります。
労働環境が悪いと、そのストレスで思考停止状態になってしまい、改善する思考も失われて「惰性の毎日」という泥沼に入る危険性があります。精神面の悪影響が発露する前に、対策を取らねばなりません。
私生活の瓦解
休みなしで働く人の中には、既婚者が多い傾向にあります。独身者よりも既婚者の方が、より「家族のために稼がなければならない」という意識が強くなりますので、どのような過酷な現場でも「転職しよう」という方向に視線が向きにくいのです。
しかしその気持ちとは逆に、家族といる時間がどんどん減っていくことによって、コミュニケーションが取れなくなり、結果的に「家庭が崩壊する」こともあり得ます。
特にお子さんがいる家庭では子育てや教育とも疎遠になるため、家族内の関係性が著しく悪化してしまうケースも多いのです。
人はそれぞれ、自分の視点からしか物事を認識することが出来ません。子どもの立場からすると、「家にいつもいない父親より一緒に遊んでくれる父親が欲しい」と思います。母親は理想的には「家事育児の苦労を労ってくれる夫」を求めています。
父親はそうした要求をつきつけられても、「俺はこんなに家族のために頑張っているのに、どうして誰も支えてくれない」と怒りを覚えます。
また仕事のストレスを家庭に持ち込んでしまうと、家族にもストレスが伝染してしまいますから要注意です。
これらの欲求がぶつかり合った結果、不満が蓄積して破滅に至ってしまうのです。
本来であれば欲求の妥協点を探し合いながら調整をするのですが、「働きづめ」の人間ではそのような調整の機会を得ることも困難です。私生活が瓦解し始めると、それがまた生産性の低下などにも繋がりますので、完全な悪循環に陥ります。
過酷な環境の脱出法
過酷な環境から抜け出す
・ヘルプライン
・転職を視野に
・法的な訴えも
休みなしで働く人の労働環境は、多くの場合が過酷です。周囲の人に相談したり、上司に直談判できるような環境なら良いですが、ほとんどはそうではなく、1人で悶々と悩んでいます。
色々と改善を試みたが、一向に状況を改善出来ない、心身ともに限界だ、上司は全く取り合ってくれない...。努力をしてもダメだった、そんな最終手段として
休みなしで働く人がそういった苦しい状況から抜け出す方法をご紹介します。
ヘルプライン
「全く休みが無い」という状況に追い込まれた時、まず最初に考えて欲しいことは、会社のヘルプラインに相談することです。企業規模によっては本社と支店では全く労働環境が違うことも多いので、ヘルプラインに相談して改善するよう動いてくれる場合もあります。
例えば、過酷な労働環境を引き起こしている元凶であるパワハラ上司を転勤させてくれる、部署移動させてくれる、などの期待が高まります。
ただ、規模が小さい企業では「すぐに誰がヘルプラインに相談したのかわかる」ような環境があり、相談者本人の状況が悪化するだけというケースもあります。
転職を視野に
相談する場所もない、改善する見込みもないという場合は、転職を視野に入れましょう。
しかし休みなしで働く人は、そもそも転職活動を行う時間も取れないということが多くあります。それでも、「休みを取らせないという違法行為」を認識して、自分が違法行為に加担しないという正義の意味においても、意識的にアクションを起こすことが必要です。
中には、忙しい求職者の都合に合わせて「電話面接・スカイプ面接」など面接の方法を行う企業も増えています。視野を広く保ちながら、転職へ向かいましょう。
法的な訴えも
仕事を辞められない、何かと妨害される、理不尽な仕打ちを受けている、といった状況になった場合は、法的な訴えを起こすことも1つの手段です。
訴訟はお互いの時間や多大なエネルギーを使う、心に悔恨を残す可能性もあるなどの理由から、あくまでも「最終手段」となります。
仕事を辞めるにしてもなるべく穏便に辞める方が良いことに違いないのですが、どうしても「今まで受けた仕打ちを許す訳にはいかない」「会社を正さなければならない」という気持ちがある方は、訴訟に踏み切るべきです。
訴訟するには、明確な証拠が必要になりますので、労働の実態を証明するものを事前に集めておきましょう。
なお、そうした証拠を「労働基準監督署」に持ち込み、改善勧告を促すことも出来ます。それを最初の一手としても良いかもしれません。その勧告によっても改善が見受けられなければ、訴訟を検討するという流れを取りましょう。
企業側にしても、訴訟まで発展し、長時間の揉め事に時間と体力を消費することは避けたいはずです。労働基準監督署を間に置けば、企業が環境改善に乗り出してくれる可能性もあります。
まとめ
今回のまとめ
「法律問題」
・労働基準法
・時間外労働
・休憩時間
「各種リスク」
・生産性の低下
・健康の被害
・精神の悪影響
・私生活の瓦解
「過酷な環境の脱出法」
・ヘルプライン
・転職を視野に
・法的な訴えも
(最後に)働く意味を改める
今回は、休みなしで働く人が背負うリスクをご紹介しました。
休みなしで働く人は、自身の心身への影響を考えられなくなっていることも多いですし、そもそも違法行為であることの認識が薄くなっているかもしれません。
そのままにしておくと、取り返しのつかない状況になる可能性もあるので、場合によっては転職を検討すると良いです。自分自身の健康のため、「自分が働く意味」を今一度立ち止まって考えてみましょう。
休みが全く無くても、仕事自体は愛しているというケースもあるでしょう。同僚よりも働き、他の社員と差別化する意味でも、会社に忠義を尽くしたいと思われる方もいます。つまり「長時間労働も場合によっては必要悪」だと捉えることもあるという訳です。
それもまた考えとしては理解出来ますが、自分の愛する企業の価値を考えた時、「ブラック環境」の横行状態を継続させることは無益です。会社とその仕事を愛するのであれば、その環境をただ享受するのではなく、その環境を是正するように懸命に努力することが必要なのです。
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